- Home
- コトノ出版舎の連載企画【わたしの移住体験記「住めば住みぬる」】
- コトノ出版舎の連載企画【わたしの移住体験記「住めば住みぬる」】その2
イベント告知/連載
9.262018
コトノ出版舎の連載企画【わたしの移住体験記「住めば住みぬる」】その2

「先住地」と「出身地」と「実家」について
新たな場所に引っ越しをすると、いずれの場所でも必ず聞かれるのは「どこから来られたんですか?」「ご出身はどこですか?」「ご実家はどこですか?」の3つの質問です。特に生い立ちを詮索するという意味合いではなく、仲良くなるきっかけのための挨拶のようなもので、初対面同士で共通の会話の糸口を見つけるためによく聞かれます。
例えば、多可町生まれで多可町育ちの人が東京に移住して同様の質問を受けた場合、いずれの質問に対しても「兵庫県の多可町です」と答えると、そこから「兵庫県民でもあまり名前を知っている人がいない地域なんです」「自然が美しいところです」などと会話が始まるのですが、私の場合は上記のいずれの問いに対しても、一言で説明しようと思えばできないことはないのですが、正確にお伝えしようと思うと回りくどい説明になってしまいます。
まずは、「どこから来た」という先住地に対する質問ですが、端的に言えば西宮市の生瀬というところです。西宮市というと瀬戸内海に面した海側の地域のイメージが強いのですが、実は六甲山系の山を越えた北側まで、かなり縦に長い市なのです。生瀬はその北側に位置する地域で、宝塚のすぐ西側です。なので、説明をするときには「宝塚のすぐ隣の西宮市の生瀬というところから来ました」と説明することにしています。面倒くさいときには「西宮」とだけお伝えする場合もありますが、その後の話の流れで、移住するきっかけの話をするときに福知山線の事故に遭ったことの話になると、「西宮に住んでいて通勤で福知山線を使っていたんですか…」という辻褄の合わないことになってしまうので、福知山線沿線の「宝塚の隣の生瀬」という説明が一番端的で誤解のない伝え方になっています。
2つ目の「出身」ですが、生まれは大阪府寝屋川市の萱島というところです。いわゆる昭和の文化住宅というところに住んでいたようですが、1歳8ヶ月で福岡に転居しているのでここの記憶はまったくありません。自分としては、文化住宅の1階の一番右下の部屋に住んでいたということや、ミッキーマウスの指が時針になっているおもちゃの時計を持っていたなどを覚えているような気がしますが、どうやらそれは後から写真で見た内容や親から聞いた話を自分が記憶していると勘違いしているようです。いずれにしても、この地にはまったく何の思い出も思い入れもないので、「出身」と聞かれても、何となくそこを出身地と言いたくないような気持ちがいつもあります。しかも以前は本籍地が寝屋川市でしたが、あまりにも遠くて書類が必要になったときに不便なので本籍そのものも変更しました。なので、戸籍上でも萱島というのは記載されなくなりました。以前、パスポートの更新か国際免許を取りに行ったときに萱島に行ってみましたが、当然のことながらまったく何も感じることはなく、ただの知らない町に来たという感覚しかありませんでした
逆に、福岡市城南区の七隈というところは、1歳8ヶ月~小学1年生の夏まで過ごした場所ですので、いろいろと覚えていることがたくさんある場所です。私にとって、「人」として最初に記憶を刻み始めた場所は七隈だと言えるのですが、出身を聞かれたときに「福岡の七隈です」と言うのは嘘になります。なのでこれも面倒な話なのですが、説明をするときには「大阪で生まれましたがすぐに福岡に引っ越ししましたので、博多(七隈と言っても誰も分からないので)で育ちました」と言うことにしています。
3つ目の「実家」ですが、鳥取県三朝町の木地山というところです。写真を見てもらっても分かるとおり、多可町など比べ物にならないぐらいのド田舎…というよりも、あと15年ほどしたら消滅するような限界集落で、集落全員が「小椋」姓です。ただ、ここは父親の生まれ故郷なので、私は住んだことがありません。父が高校を出てから大阪に働きに出てからはずっと商社の仕事で転居をしていたので、彼がこの地に戻って来たのは約20年ほど前に祖父母の家の近くに越して介護をするためです。なので、実家と言っても私の両親もずっとここに住んでいたわけではありません。「実家が鳥取」と言うと、僕もそこで育ったと思われて「良いところで育ったんですね」と言われることがあります。そう言ってくださったら「父の生まれ故郷なので、僕は住んだことがない」とお伝えすることができるのですが、何も言われないと説明する機会もないので「聡さんは鳥取育ち」と勝手に思われてしまうことになります。
いずれの場合もそれはそれで良いのですが、何かのきっかけのとき「鳥取出身の小椋さん」と紹介されたり、「宝塚から来た小椋さん」になっていたり、たまに「台湾生まれの小椋さん」と言われることもあったりします。別にこちらも出身地を隠すつもりは全然無いのですが、後からこういう話が出てくると何だか自分が嘘をついているみたいですし、こっちで聞いた話とあっちで聞いた話が食い違ってくるのできちんと説明をさせてもらいたいな…と思うことがよくあります。